中学受験は、子どもだけでなく親にとっても一大イベントです。最近、首都圏での中学受験者数は増加傾向にあり、受験率も過去最高を記録しています。しかし、ただ「とりあえず」始めた受験が、親子共々「沼」にハマってしまう危険性があると教育ジャーナリストの中曽根陽子氏は警鐘を鳴らしています。
中学受験は、親が敷いた「レール」を子どもが走るという構造になりがちです。親は子どもに良い教育を受けさせたいという思いから塾に通わせますが、次第にその思いがエスカレートし、親子共に受験のプレッシャーに押しつぶされてしまうこともあります。では、どうすればこの「受験沼」から抜け出し、成功を手に入れることができるのでしょうか?
参考記事:「東洋経済education×ICT」, 2024年9月1日
URL:https://toyokeizai.net/articles/-/793549
成功と失敗の分かれ道
記事では、同じ学校に通うA君とB君という二人の少年の事例が紹介されています。A君の親は、彼が小学生の頃から優秀な成績を期待し、厳しい受験勉強を続けさせました。しかし、彼の成績が伸び悩むと家庭の雰囲気は次第に殺伐とし、最終的には第一志望の学校に合格できず、親も子どもも不満を抱えたまま進学する結果となりました。このような状況では、子どもが自信を失い、学校生活にも支障をきたすことが多いのです。
一方、B君は親が彼のペースに合わせ、受験を楽しむことを重視しました。B君が受験を決意したのは、学校の体験会で「これだ!」と感じた瞬間があったからです。親もそれを尊重し、無理なく進学のサポートを行った結果、B君は自分のペースで成長し、最終的には志望校に合格しました。彼にとって受験は、「やらされるもの」ではなく「やりたいもの」になったのです。
受験を成功に導く「受験軸」とは?
この二人の違いを生んだのは、家族全体で共有した「受験軸」の有無です。「受験軸」とは、受験に臨む際の家族としての目標や方針を指します。何のために受験するのか、どう進めていくのかを家族で明確にすることで、受験におけるストレスや迷いを減らし、結果的に成功へと導くことができます。
親が一貫した目標を持ち、子どもの成長をサポートすることで、受験は単なる通過儀礼ではなく、子どもにとって大切な成長の機会になります。A君のように、目先の結果にとらわれてしまうと、受験後も不満や後悔が残りかねません。しかし、B君のように受験を通して自分の興味や適性を発見し、成長することができれば、その後の人生にも大きなプラスとなるでしょう。
塾経営者の視点で考える
塾経営者として、受験軸の重要性を理解し、それを支援する体制を整えることは、塾の成功に直結します。まず、受験軸とは単に学力向上のための戦略ではなく、親子が中学受験を通して達成したい目標や価値観を明確にし、それを一貫して追求するための指針です。この軸がしっかりしていれば、受験の過程で直面するさまざまな困難や迷いを乗り越える力が生まれます。塾として、親子がこの受験軸を明確に設定できるようサポートすることが、他の塾との差別化要因となります。
具体的には、カウンセリングや面談の場を積極的に設け、親子が共有する目標を深堀りする機会を作ることが有効です。たとえば、受験準備の初期段階で、保護者と子ども双方と面談を行い、受験の動機や目標、家族の価値観について話し合うことが大切です。この段階で、親子にとっての受験の意味を明確にし、受験軸を共有できるように導くことで、後の指導がスムーズになります。
また、受験軸に基づいた個別指導プランを提案することも効果的です。各家庭の目標に合わせたカリキュラムや、成績管理の方法をカスタマイズすることで、生徒一人ひとりに最適な学習環境を提供できます。このような個別対応は、保護者からの信頼を得やすく、塾のリピート率や評判向上に寄与します。
さらに、塾の指導方針や価値観が一貫していることを、保護者にしっかりと伝えることも重要です。例えば、塾の理念として「受験は子どもの成長の一環である」というメッセージを明確に打ち出し、それに基づいた指導を行うことで、保護者との共感が得られやすくなります。これにより、塾のブランド力が向上し、安定した生徒募集につながるでしょう。
最後に、塾内での講師教育にも受験軸の概念を取り入れることが重要です。全ての講師がこの考え方を理解し、指導に活かせるようにすることで、塾全体の指導品質が向上します。講師が家庭とのコミュニケーションを通じて、受験軸を確認し、常にその軸に沿った指導ができるようになることが、塾の一貫性と信頼性を高める鍵となります。
こうした取り組みを通じて、塾は単なる「学力向上の場」ではなく、「親子の目標達成をサポートするパートナー」としての価値を提供できるようになります。これにより、塾経営の安定と発展が期待できるでしょう。