中央ヨーロッパ・チェコの中等学校4校で行われ今年7月に公開された調査から、生徒の生成AI利用は広がる一方、教科ごとのルールが不明確な実態が見えてきました。日本の学校にとっても、「全面禁止・全面解禁」と規則化しても足りない理由と、教科別運用のヒントが得られる内容です。
生徒の利用は「丸投げ」一色ではない
チェコの職業・ビジネス系中等学校4校の生徒416人を対象に、コンピューター科学、数学、自然科学、経済の4分野で生成AIをどう使っているかを調べた研究が2026年7月に公開されました。質問紙と自由記述を組み合わせた調査で、生徒の使い方だけでなく、学校や教師のルール認識、AI回答の検証行動まで見ています。
生徒の使い方で最も多かったのは、複数の方法を組み合わせる「ハイブリッド型」で211人でした。続いて、AIに課題を解かせる生徒が85人、AIから方針を得て自分で解く生徒が62人、自分の解答確認だけに使う生徒が47人でした。
用途として多かったのは、理論を段階的に説明してもらうこと、解答の確認、問題や解法の分析です。研究は、生徒がAIを主に「思考の代替」ではなく、説明や手順確認のための足場として使っている傾向を示しています。少なくとも自己申告ベースでは、生成AIは全面的な代行者というより、学習過程に入り込む補助ツールとして位置づけられていました。
問題は利用の有無より「ルールの不透明さ」
特に重要なのは、学校側のルールが十分に伝わっていない点です。数学では37.3%、自然科学では40.9%が、AI利用ルールについて「まったく明確でない」と回答しました。
一方で、数学では65.9%、自然科学では55.3%が「利用を禁止されている」と認識していました。つまり、生徒は「禁止されているらしい」と感じているのに、何がどこまで禁止なのかは分からない、という状態です。研究では、理論性が高い教科ほど、禁止の認識と水面下での利用が併存する「透明性ギャップ」が示されました。
この点は日本でも示唆的です。学校全体で「生成AIは禁止」あるいは「活用推進」とだけ打ち出しても、教科ごとの課題や評価方法に落ちていなければ、生徒は判断基準を持てません。結果として、隠れて使う、過度に萎縮する、許容範囲を誤解するといった行動が起きやすくなります。
誤答に気づいても外部確認は少ない
もう一つの焦点は、AIの誤りへの対処です。数学では170人が、AIの誤答やハルシネーションに頻繁に遭遇していると答えました。それにもかかわらず、教科書や別資料で外部確認する頻度は高くありませんでした。
研究者はここから、「プロンプトを修正する力」と「回答を検証する力」の間に大きな隔たりがあると指摘します。生徒はAIの返答が気に入らなければ聞き直したり言い換えたりできますが、その内容が教科の基準に照らして正しいかを確かめる行動は弱い、ということです。
これは授業設計上の重要な論点です。生成AI活用を進めるとき、プロンプト作成の巧拙だけを評価すると、もっとも大切な検証の習慣が育ちません。特に数学や理科では、答えが出ることと、根拠が妥当であることは別問題です。
教科別の「可・不可」を明示したい
この研究から導ける実務的な示唆は、教科別に利用区分を具体化することです。たとえば数学なら「別解の提示や解答確認は可、途中式の丸写しは不可」、理科なら「概念説明は可、実験結果や観察記録の生成は不可」といった整理が考えられます。
同様に、情報では「コード改善は可、動作を説明できないコード提出は不可」、社会・経済では「論点整理は可、出典未確認の記述は不可」のように、成果物と評価観点に結びつけて示すことが有効です。重要なのは、AIそのものを一律に許可・禁止するのでなく、どの学習行為を守りたいのかを先に定めることです。
課題設計でも、AIに質問して終わりではなく、「AIの説明の誤りを見つけ、教科書や一次資料で訂正する」「複数回答を比較し、どれが妥当か理由を書く」といった検証型の活動を組み込む余地があります。
解釈には留保も必要
ただし、この調査はチェコのビジネス・経済系中等学校4校に偏っており、自己申告による一時点のデータです。チェコの高校生全体を代表するとは限らず、因果関係も断定できません。
それでも、生成AIがすでに生徒の学習ワークフローに入り込み、学校の統制より先に利用実態が進んでいること、そしてルール不明確さが運用上のリスクになっていることは、日本の学校現場にも重なる論点です。
💡 先生へのポイント
- 学校全体の一律方針だけでなく、教科ごとの「可・不可」を例示する
- 「AIを使ったか」ではなく、「どこを自分で考え、どこを検証したか」を提出物で見える化する
- プロンプト作成課題だけでなく、誤答発見・根拠確認・訂正の課題を入れる
- 数学や理科では、答えの正否だけでなく途中の説明可能性を評価に含める
まとめ
この研究は、生成AI利用の広がり以上に、禁止と不明確さが同時に存在する学校運用の難しさを示しました。日本でも、教科別ルールの明示と、AI回答を検証する力を育てる課題設計が、次の実装ポイントになりそうです。
出典:Navigating AI in STEM: what secondary students actually do with generative AI-driven tools | International Journal of STEM Education | Springer Nature Link https://link.springer.com/article/10.1186/s40594-026-00637-8




